人と音色MAGAZINE
SEKAI KITCHEN -シリア シリアウ オイシリア –

SEKAI KITCHEN -シリア シリアウ オイシリア –

食卓を通して「知らない国」が「いつか会いたい場所」になるイベント

2026年3月、大阪のイタリアンレストラン「osteria égo(オステリアイーゴ)」にて、体験型レストランイベント『SEKAI KITCHEN ~シリア シリアウ オイシリア編~』を開催。

このイベントは、シリア文化の魅力に触れたクリエイターたちが、食事・音楽・言葉二再編集して、その魅力を届ける実験的な取り組み。食卓を通して「知らない国」が「いつか会いたい場所」へ変わる体験を届けました。

主催はシリアの難民・国内避難民の子どもたちを対象に教育支援事業を行う、NPO法人Piece of Syria。人と音色は、一般社団法人demoexpoとともに、コンセプト設計をはじめ、本取り組みのプロデュースを担当。
『PUBLIC x CULTURE  ーニュースや演説では届かないことも、文化的な体験だからこそ”自分ごと”にできるのではないかー』その考えを軸に、対話を重ねて本プロジェクトに取り組みました。

当日はまちづくり、デザイン、教育、旅など様々な活動分野から、ご参加いただきました。

出会いは2年前の難民地域への訪問

2024年6月。不思議なめぐり合わせで、わたしは、Piece of Syriaの中野さんと共に、シリアの難民も暮らしているトルコ南部、シリア国境近くの地域を、妻と3歳になる子どもと一緒に訪れました。
現地に到着して驚いたのは、私の子どもが町を歩けば、すぐに現地の子どもたちに囲まれ、

次から次へとお菓子を手渡されていたこと。「どうぞ」「食べてって」
その言葉とともに差し出される手。ひっきりなしにお茶や食事に招かれました。

それらは決して特別な演出ではなく、彼らには日常の延長にある、ごく自然なもの。シリアは“最大のおもてなし国”だと言われていますが、その意味を、身体で理解した瞬間でした。

日本で暮らす私たちは、シリアに対して様々な情報や印象をニュースから受け取ってきました。けれど、私にとって、そして私の子どもにとっても、いま「シリア」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、そのときの光景です。

出会った人たちのこと、息子の嬉しそうな顔。食卓を囲んだときの空気、お菓子やごはんの味。“体感”した記憶は、ニュースで得る情報よりも確かな輪郭を持ち、自分とのつながりになります。帰国後、報道に触れるときの解像度が上がり、日々の活動の中でも、自然と「自分ごと」として考えるようになりました。

コンセプト設計:「知る」のではなく、出会って「知り合う」体験をつくる

そんなシリアは、2011年から長く続いた戦争によってシリアの人口の54%が難民・国内避難民として故郷を離れています。難民となったシリア人の子どもたちの中には、自国へ足を踏み入れたことがない人も多く、「シリアの魅力」を知らずに育っています。その結果、代々受け継がれてきた無形遺産や口承文化が失われつつあり、自分たちの故郷の味や歌を伝えられないことに、親たちは強い葛藤を抱えている現状があります。

文化を守りたいと思ったとき、それに関わる人の数が何より大事だというのが私の考えです。必要以上に距離がある国の文化や、人の営みに関心を持ってもらうこと。できれば好きなところを見つけてもらい、関わってみたいと思える体験を届けること。それが私たちができるアプローチだと考えました。
シリアを“知る”のではなく、出会って“知り合う”体験イベント。


その方針のもと、このプロジェクトには料理人のシンさん、日本在住のシリア人シェフのHibaさん、サウンドアーティストの啓さんが作り手として参加。私と同様、中野さんをきっかけにシリアと出会い、魅了されたクリエイターたちが仲間になってくれました。

イベントの体験設計:料理・音楽・写真で知り合うアプローチ

料理で知り合う

日本在住のシリア人シェフ Hiba Jamjoom(ヒバ ジャムジューム) 氏と考えた、シリアのハレの日に食べるメニューをコース形式で提供。前菜からデザートまで、シリアの魅力が詰まった特別な一皿を、靱公園に隣接するイタリア料理の名店「osteria égo(オステリアイーゴ)」のシェフ山田 真志(やまだ しんじ)氏が、アレンジを加えて仕立てました。

「シリアの料理を深堀りすると、僕のルーツであるシチリア料理と通るものがたくさんあって面白かった。調味料の使い方とか旨味の出し方、水分の方とか。だからレシピにも、僕の感覚とかアレンジがはいってます。」とシンさん
ヒバさん「シリアの食卓は、お腹を満たす以上の思いがある。そこに集まること、対話をすること、長い時間を共に過ごすこと。取り分けることは、相手を思いやること。私たちが大切にしているこうしたシーンを通して、日本の方々に私たちの国や文化を知ってもらえたことにとても感謝を感じています。」

音楽で知り合う

会場では、音楽家 山本啓(やまもと ひらく)氏のライブパフォーマンス。啓さんも、私と同様Piece of Syriaとの出会いをきっかけに、トルコを訪問した一人です。現地で出会ったシリア人アーティスト フセイン氏との対話やセッションを通じて生まれた音楽も披露されました。

「時には言葉で語るよりも、抽象的なものの方が伝わることもあるんじゃないかと思います。」と啓さん

写真とエピソードで知り合う

空間全体を飾った写真展示は、中野氏が実際にシリアに暮らしていたときのもの。そして、ひとつひとつに、彼の日常が綴られている。特別ではない、でも異文化に戸惑う当時の様子を想像して笑ってしまう、そんなストーリーが映し出されていました。

中野さん「今日写真がほとんど僕のやつなんですけど、田舎っぽいなと思ったら、僕が住んでたとこです。都会っぽいなと思ったら旅行で訪れたとこです(笑)。」

プロデュースのまとめ

文化的なエンタメ体験でパブリックを自分ごとに

このプロジェクトでは、難しい問題を含むからこそ、まず「美味しい」「楽しい」「気になる」というシンプルな感情の動きを目指しました。その感情が、思いがけずパブリックなテーマとつながっていることに、後から気づく。その順番が大事で、逆にしてしまうと人は構えてしまうかもしれません。

そして体験そのものが本物であること、参加者が自分なりに解釈する余地があること、正解を一つにしないこと。実はいろんなバランスをとりながら、でもそれを言葉で縛りすぎずに対話と空気感を共有しながら、それぞれの表現が混ざり合って形になっていく本当に楽しいプロジェクトでした。そしてそのプロセスの中ですでに、関わったメンバーは楽しみながら、自然と文化継承の担い手になっていたのだと思います。まだ入口、ぜひ楽しみながら巻き込まれていってください。

そして「文化的な体験でパブリックを自分ごとにする」「プロセスの中で関心層を増やしていく」というアプローチは、文化継承に限らず
「伝えたいことが届かない」「関わってほしいのに関わってもらえない」
という問いに応えるプロジェクトデザインだと捉えています。

このプロジェクトをきっかけに、新しい協働が生まれることを願っています。
ご相談や協業のお問い合わせはぜひ、お問い合わせページからよろしくお願いします。

私たちのプロジェクトデザイン:
「社会課題(PUBLIC) × 文化・エンタメ(CULTURE)」 ニュースでは届かない複雑な社会のことを「楽しくて心が動く体験」へ変換。本プロジェクトのような、対話とヒアリングから導き出すコンセプト開発から、クリエイターを巻き込んだ体験づくりまでを一気通貫でプロデュースいたします。

参加者の声

私たちが目指した『美味しい・楽しいから入り、後からパブリックなテーマと繋がる』というコンセプト設計は、参加者の皆様にどう届いたのでしょうか。みなさんの完成やメッセージを一部ご紹介させていただきます。

生活や国民性や現地の人たちとのやり取りなどを知ると、大切にしているものや人が嬉しいと思うことはどこの国の人たちも同じというか共通点はたくさんあると感じます。だからこそ、どこの場でも穏やかな生活があってほしいと思います。それぞれの場所でお互いが手を振りあい、他人事にならず関心を寄せあうようになれるかも、と思いました。

こういう場じゃないとわざわざシリアのこと学ぶっていうのはなかなか難しいと思うんだけど、料理と宗教感みたいなことを学ぶだけでも、もっと相手のこと知れるようになっていく。知ることこそ戦争なくすことちゃうかっていう気もする。

参加前は「シリアの文化」という言葉自体が、すでにニュース報道の文脈に回収されていたと思います。つまり、文化そのものを思い浮かべる前に、戦争、難民、破壊といった社会的イメージが先に立ち、シリアを一つの“問題のある場所”として見ていた面がありました。参加後に変わったのは、シリアへの印象だけではなく、自分がある地域をどれだけ“課題”としてしか見ていなかったかという認識です。料理や音楽、写真を通して触れたのは、困難の説明ではなく、そこで営まれてきた美意識や祝祭性、家族性のようなものでした。そこに触れたことで、社会課題を考えるうえでも、まず失われつつあるものの“豊かさ”や“魅力”を知らなければ、本当の意味では向き合えないのだと感じました。「遠い国が近づいた」というより、自分の認識のフレームが少し更新されたことが、参加後の一番大きな変化だったと思います。

壁に貼られていた「あなたにとって成功とは」の文章がずっと心に残ったまま山本さんの音楽を聴いたら、涙が出そうになってしまいました。すばらしい料理を皆さんと囲みながら、19歳の青年のことを思いました。

クレジット

Present: NPO法人 Piece of Syria
Chef:山田 真志(osteria égo)
Chef:Hiba Jamjoom
Sound Artist:山本 啓
Video:木平尚吾
Photo:はまだみか(人間)
Planner・MC:しまだあや
Producer:武藤崇史(人と音色)、今村治世(demo!expo)

■プレスリリース
失われゆくシリアの文化を「食と音楽」で伝える─体験型レストラン『SEKAI KITCHEN』シリア編 3月6日(金)大阪・京町堀で開催
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000087.000095779.html

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