音楽を食べて体感する実験イベント『味覚音楽』
目次
11月10日(金)、新大久保にあるキッチン付コワーキングスペース「K,D,C,,,」で音楽を食べて体感する実験イベント『味覚音楽』を開催しました。味覚音楽は音楽を「耳で聴く」だけでなく「見る」「さわる」「感じる」など、全身で音楽空間を体感し、そのときの感情を料理(味覚)で再表現する実験的なイベント。音楽に触れた瞬間の感情を、味覚で再表現するプロセスのなかで、参加者それぞれの多様な認知や思考、異なる感覚の面白さや、ちがいのもつ可能性に気づくことができるインクルーシブな体験として企画しました。
企画背景
ユニバーサルデザインとは、年齢や障害の有無などにかかわらず、できるだけ多くの人に利用しやすいよう配慮されたデザインのことをいいます。階段のスロープや、車椅子対応のトイレ、ノンステップバスなど生活のインフラを中心として浸透が進んでいる考え方です。
一方で、コミュニケーションやエンタメにおいて、特性のある人が他の人々と共に楽しめる場はまだまだ限られています。お互いのちがいを受け入れるのが難しかったり、心理的な障壁が生まれてしまうことは少なくありません。
そこで株式会社人と音色、NPO法人Silent Voice、株式会社人間の3社は共同で「交流のユニバーサルデザイン」を研究するプロジェクト『響感覚』を立ち上げました。「交流のユニバーサルデザイン」とは、年齢や言語、障害などさまざまなちがいをもつ人々が、互いの視点や感性を発揮し、「ちがいが魅力となる場のデザイン」ことを言います。それぞれのもつ異なる感性=異感覚に注目し、共に対話や創作活動を行うことで今までにない新たな体験価値を生み出し、より豊かな体験が生まれる世界を目指します。プロジェクトの一環で、ちがいが魅力になる体験イベントとして「味覚音楽」を企画し、KDCの運営を行う一社である株式会社STUDIO HOLIDAYと共催として、開催しました。
当日の様子
1.導入&アイスブレイクWS
18:30定刻より味覚音楽を開催。本イベントの趣旨やプロジェクト立ち上げの背景を説明しました。特殊な体験をする本イベントの特性上、参加者が意味や見通しが持てることを大切にしていました。その後アイスブレイクとして参加型の音楽体験を実施。ワークの中でチームで対話する時間や人前で大きな動きをする時間をつくり、心理的安全性の高い空間に変えていきました。
2.音楽体験
音楽体験では身近な「タライ」や「洗濯板」などを楽器代わりに演奏するYuglet Waterloo Jug Bandのライブ。参加者はワークシートを手にライブで感じたことをメモしていきます。途中で「耳が聞こえない参加者はこういうふうにライブをみていた」と視点を変えるきっかけを話したり「一緒に楽器をもつ」「目の前にすわって見上げる」といった指令カードを提示し、段々と普段の聴き方とはちがう音楽体験をしてもらいました。ライブが終わる頃には、一曲めとは明らかにちがう親密な空気が生まれ、感じようとする姿勢が強くなっていました。
3.レシピづくり
レシピ作りは参加者それぞれのワークシートを共有し合いながらチームで行いました。自由にちがいを発揮し合えるディスカッションにするための工夫として、1人1種ずつ食材を選んでいただきました。食材選びでも形、食感、色などいろんな視点が発揮されていました。各チームの料理人+ファシリテーターが感性のちがいや共通点を捉え、世界観や情景を描き、最後は料理に落としていく時間。難題にも思われるワークも、それぞれが表現したいシーンから考えることで各チームの目指すヒトサラが見えてきました。
4.調理
料理家を中心にしながら、参加者全員で調理を行っていました。「いま”青春”がはいりました」などレシピづくりで生まれたキーワードで対話をしながらつくる様子は、どのチームも楽しそう。音楽家がカメラマンをつれて各チームを回ってみると、3チームともまったく異なる香りが漂ってきて、早速チームごとの”ちがい”を感じることに。ワンプレートにメンバーの感性を溶け込ませるチームもいれば、たくさんの料理をつくってまとめて食べたときの世界観で表現するなど、アウトプットも多様でした。
5.料理紹介&食事
調理のあとは、全員で長テーブルを囲み乾杯!各チームを代表し担当の料理家が、話し合いでうまれた世界観と実際に調理した料理を説明。音楽家のメンバーも交えて実食しました。「料理の中に自分の発言も感じられた」という参加者の声のとおり、意見を削ぎ落とさずみんなの想いをいれた料理が生まれていました。音楽家も自分たちのライブから誕生した料理に心を震わせ、笑い声が響き合う食卓でした。
出来上がった料理
Aチーム(左上)『青春と懐かしさ』
青春、泥くさい、まだ何者にもなれていない、野望、熱さ、西部劇、農場、はじける、色とりどり、クセがあるけどまた欲しくなる、懐かしさ、ルンルン、柔らかい、太陽or月、マーブル、溶け込んでいく
Bチーム(右上)『個性が一つに!多彩に弾ける異国感!』
異国感(タイ、昔のアメリカ、インドetc…)・陽気・ビールで乾杯・ポンポンパンパン弾ける感じ・でこぼこ・電車、トロッコ・探検・モワッと包み込む・自然、景色、緑、花畑・沢山の個性・バラバラなのに1本芯がある
Cチーム(左下)『あたたかい家族の団らん懐かしさと未来がとろけ合う新しい景色』
団らん、あたたかさ、夕焼け、はじけて踊る、とろけ合う、歯応え、甘いだけじゃない、大人味のお菓子、ワクワク
参加者の声
◯音楽家
・普段言われることのない具体的で、時代や世界観を表現する感想をもらえて嬉しかった
・すごい数の受け取り方や楽しみ方があると気づけた。そこに訴えていければもっと共感が生まれる音楽になりそう。
・複雑な感覚が混ざりあって美味しい。二度と体験できない料理を食べられた感覚。
◯料理家
・初めての料理方法が、自分にとって新たな挑戦だった。協力したから楽しく創り出すことができました
・3チームで作ったものを混ぜ合わせて食べたものが一番おいしかった。この料理について朝まで語れる。
・人のことをより深く触れたり考えたりできて、これからの音楽や料理に刺激をもたらしてくれた。
・音楽から似ている情景を思い浮かべていても、それを表現するイラストや言葉がちがうことで全くちがう料理になった。これも異感覚だとおもった。
◯参加者
・音楽を他のものに変換する、音楽を聴覚以外で楽しむ、という体験が新鮮でした。
・音楽をイラストにし、共有する過程が面白く、こんなに違うんだという驚きがあった
・音楽のイメージや心情を料理に落とし込んだことで、他者との共感がしやすい、共鳴しやすいと感じた。料理にはそういう力があるのだと実感した。
・出来上がった料理は全くちがうけど、全てあのバンドを表していることが伝わってくる気がした。
・これまで”食事を一緒に楽しむ”のは外食だったが、このイベントは新しい楽しみ方になると思った。
・もっといろんな人と関わってみたい。海外の人や耳の聞こえない人などと感じ方や考え方の違いについて見つめ合い語り合いたい。
まとめ
今回の実験イベントでは音楽をレシピに変えるという特殊な体験の中で、様々な場面で「ちがい」に気づき、発揮しあえるシーンが生まれていました。特にレシピ作りのとき。日常の会議なら何か共通項から1つの正解を探ってしまうところも「ちがいを楽しもう」という姿勢になると、議論が小さくまとまることなく、ちがいを活かしたまま(よくわからなくてもいいから)形にしてみよう!!と手が動き始めていました。そして、どのチームも調理が終わるころには親密になっていました。
それぞれが何を感じたのか伝えよう / 受け取ろうとするエネルギーがすごく満ちていた時間になったと思います。今後もこのような実験と検証を繰り返して、インクルーシブな場を生み出すノウハウを探求していきたいと思います。
またこの実験イベント「味覚音楽」をワークショップとして実施してみたい団体様、研究に携わりたい企業・団体・個人の方がいましたらお問合せにご連絡ください。
味覚音楽
日程:2023年11月10日(金)18:30〜22:00
場所:キムチドリアンカルダモン 新大久保
企画プロデュース:株式会社人と音色 / NPO法人SilentVoice / STUDIO HOLIDAY / 株式会社人間
音楽:Yuglet Waterloo Jug Band
料理:堀内愛 / ルナコムロ / 亜万菜 【スチール撮影】猪飼健史
ご協力:株式会社SEAM(低アルコールのスパークリングワイン「AWANOHI」ご提供)